細波水波

さやさや揺れる風の中 さわさわ揺れる水の音 たゆたいながら月に10冊年100冊

日本の労働法政策

通読した!良く頑張った自分。索引なしの(笑)1074頁、これが通読できたのは思いもかけない入院(2wちょい)の不幸中の幸い?でした。家人に持って来てもらうのも「あのぶ厚いやつ」で通じたし。もちろんこの本以外にもベッドのお供は軽いの病院図書館でいろいろ借りておりますが、この本がなかったら入院がもっと辛かったのは間違いない。と、閑話休題

濱口桂一郎先生の、法政策の歴史解説。いや解説というか事実の提示。基本明治期からついこの間までの逐一の(端折られているところももちろんあるでしょうが、それが分かるのはほぼ濱口先生だけに近いのではなかろうか)政策形成過程を丁寧にというか膨大に提示される。工場法時代のモデル就業規則って!(p737ほか)
一方でこの本としての解釈や議論や課題の提示はあちこち滲んではいるけどはっきり書いてあるところはほとんどなくて、それらは「事実の提示」としてのみ示される。人権法案のボリュームあるなーとか(ブログでおなじみ)、同一賃金同一労働のところは名前入りで国会質問まで書いてるなーとか、労働者代表制は「大山鳴動して遂に鼠一匹すら」なのにこれまた相当のボリュームだなぁとか。課題の提示がないのは時間外労働の上限規制が成立したタイミングということもあるのでしょうね。エグゼンプションの頃からのhamachan先生の上限規制の議論が15年を経て結実したわけで、労働者代表制も15年あったらどうにかなるだろうか。

過半数代表者はアドホックなものと説明されておりますが、確かにそうなのですが、36協定に特別条項を盛り込みまして、その発動に「手続」を定めることとなったときからそうとばかりも言えなくなっています。手続の大勢は締結当事者との協議又は通告で(それじゃなきゃいけないことはないですが行政リーフレットの影響か)そうすると特別条項を使うときには(つまり企業によっては毎月)過半数代表者がいないといけない。まあどれくらい「ちゃんと」手続踏まれているかって問題はありますが。
もう常設にした方がいいと思うんです。36やら就業規則やらいちいちその都度選ぶのも面倒だし。それでついでに複数制=委員会。せめて50人以上では労使委員会の決議マストにしたら。事実上は衛生委員会と兼ねちゃって。常設だと任期の問題はありますが。代表性の問題と機能の問題。アドホックっていうのはそれだけで機能を低下させると思うんだよな。その都度選ばれる代表性(正統性?)はあるんだろうけど。さらに言えば、法の本来想定するところはともかくとして、過半数代表者はその都度選ばれてるとも限らないんですよね。去年選んだ人が今年も当事者になれない規定はない(締結事項を包括的に示すのは禁じられてないし、締結の都度選べとはなってないよね?)

こんな程度の労使委員会は、契約法研究会の労使委員会とは別物だなぁ…。軽い風吹けば5年もかからないよねきっと。裁量労働制も残ってるし。まあでも軽い風も吹かないか?36はしばらく寝かせておこうになるのかなぁ。
労働条件変更に労使協議(労使委員会の)を位置付けるのはもう無理か?そんなの置かない方が過半数組合を促進するか。…するか?うーん。

つらつらと考えつつ、第5部のボリュームは(特に本体の組合関係のところ)思ったより小さいなぁと思ったのでした。もちろん私には何か端折られているのかいないのか、それすらわからないのでありますが。法政策なので組合運動そのものの歴史を書いていただくわけにもいかないのですが(背景として書けなくなくても厚さもあるし)、この本と同じくらい読みやすい組合運動史ってあるのかな〜。

はい、この本は、厚過ぎるという大問題はありますが、非常に読みやすいのでありました(私のバイアスの下では)。電子書籍だと軽かったんだけどな〜。本棚にまだ場所取れてないし。索引問題も多少解決するし。
制度史だけど人の歴史でもある。人名多くて引用も多い。各会議の座長みんな書かれてるのもすごいなぁ。wikiとか芋づるで引いてみたり。
人権法とか個別紛争ここに来るのかとか初めて見た章立てですが、市場法も面白かったし次の章立てに少しずつ繋げて書いてあって読みやすかったです。結果重複がちょこちょこあるのは致し方なし。
あ、些事と思いますが「労働者の財務参加」だけはよくわかりませんでした。賃金処遇法には入らないのかなと。財務参加って財形じゃなくてストックオプションのイメージで。あるいは厚生年金基金とか。もちろん厚年はいまの場所でいいんですけど、ううむ、財務参加ってなんだろう。

とにもかくにも読了できて良かったです!ああ、積読中の山川先生の労働紛争処理法読み終えなくちゃ…(自分の本棚の中で同じ括り・苦笑)