細波水波

さやさや揺れる風の中 さわさわ揺れる水の音 たゆたいながら月に10冊年100冊

月神の統べる森で

たつみや章。これはずっと前から読みたかった児童文学で、もっとファンタジーかと思ったらむしろずっと歴史寄り(神さまの息づく世界ではありますが)でした。お話として期待は裏切られておりません。固い倫理と愛情の流れた物語。
楽しいところはたくさんあるし(いちばんは「そんなはずはありません!この世には、人間は僕たち4人だけですから」でした)、狼にたしなめられたりしながら憎悪と許しに揺れる主人公、ではなくてアテルイ(←脇役)の心情も書かれてない分惹かれますが、冒頭の、神話すなわち価値観を共有しない者たちの言葉の通じなさ、易しい文章なだけにぞくっとします。
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まあでもあともう少し?ってところも少々・・・ さて、後書きによればこの本の主題は縄文と弥生の出会い。と、そこまでたどり着いて不覚にも驚きました。蝦夷もしくはアイヌと日高見もしくは大和との出会いじゃなかったのか。カムイという言葉アテルイという名前の力はとても強くて、必要はないかもしれないのについ知識をベースに読もうとしてしまい、けれどその足元が不確かで途方にくれてしまう。縄文のひとの神は「カムイ」だろうか。否定する知識も肯定する知識もないからさまよってしまい、そんなのただのネーミングと思うには言葉に力がありすぎる。もっとも、彼らの集落は「コタン」ではなくて「ムラ」なので、「カムイ」にアイヌの神様を思わなくてもいいのかもしれないんだけど。困ったときのWikipediaによればアイヌの祖先は和人の祖先と同様縄文人を形成するが、縄文人集団から和人集団とアイヌ集団への分化過程については不明な点が多いとのこと。
で、この絡みでもう一つ疑問なのは、言葉の通じ方で。カムイとカミは似てるから言葉を知らなくても分かるかもしれないけど、魔物は通じるのかなあ?あれ、ワカヒコは少しばかり言葉が分かっていたんだろうか。そうじゃないよね?(^_^;)

6/20追記 次作を読むと、作者はこれを純然たるファンタジーとして読んで欲しいようだから、そのように。ということで前段は撤回します。