細波水波

さやさや揺れる風の中 さわさわ揺れる水の音 たゆたいながら月に10冊年100冊

鎖国してはならない

 大江健三郎。このひとは私にとっていまだ小説家ではなく評論家(?)で、小説は何度か落伍しているのだけれど、この講演集はすんなり読めた。正確であろうとする、ゆえに読みやすく、ゆえに美しい、日本語。
 ある一つの立場、考え方をとるそのバックグラウンドに、これだけの広くて堅い(まじめな)学びがあることにたじろぎつつ、その何百分の一かでもそうでありたいと思う。文学、哲学、政治はもとより、経済、そして音楽。70歳になろうとする先達に、学ぶ姿勢で負けてちゃいかんだろ、という一般論が頭の中をよぎりつつ、それはもう、一般論を立てることすらおこがましかったりする。それでも、その何百分の一かでも、と。固い思い込みから来る自信でなくて、内へ向かう「そうした辛い時間をへながら」満ちる柔らかい自信を、と。だってつくる会教科書の日本語より、美しい日本語だと思うもの。
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