細波水波

さやさや揺れる風の中 さわさわ揺れる水の音 たゆたいながら月に10冊年100冊

「育休世代」のジレンマ

中野円佳、光文社新書。育休中に取り組んだ修士論文が都心の大きな本屋で平積みになるその事実に圧倒される。最初から本を出したいと考えて、限られた時間内に、しかも出産育児と並行して修士論文を書く。そのWLBの(これはwork life balanceなのか?)在り様がすごくて、もうそれだけでも全面降伏(何に)なのだけれど。
ケーススタディ(統計分析ではなく質的研究)とはいえ論文として客観的であるように意識して書かれているものにこんな感想がふさわしいかはあるけれど、身に詰まされずには読めない新書だった。
私は出産時期が遅い点でこの論文の分析対象からは外れたけれど(勝ち組じゃない(笑))、でもかなりの問題意識を共有し、かつ同じ課題に直面する。意図はしていなかったけれど、私はたぶんWLB型で、何とか今と同様に仕事を続けていきたいと思っているし、単身赴任はあるかもしれないけど夫の協力も望める。けれどそれは迷いなく選んだ道じゃない。こうだったらいいのに、という道が明確に見えているわけじゃないけど、私たちにはジレンマが・・・何というかもどかしさが、ある。それを言語化して出版してくれたことに、感謝しつつ圧倒されるのだ。露わになった事柄は、議論の前提となるのだから。この人は、人生の競争から降りてない。どこに競争があるんだ、なぜ競争があるんだ、そんなこと言ってもそれはある。降りるべきだなんて話でもない、私も降りる気なんてない、それは出世を望むとかそういうくだらない事柄ではなくて、ただただ普通に、男であればそうするように、女の自分がこれまでごく自然にそうしてきたように、期待されたように(できるだけ)働き、かつ自分が望むようにプライベートも充実させたい、ただただそれだけのことなのだ。
何だかんだ言って、私は全編読みながら「降りてない」彼女に共感する。「降りてない」、だけどそれはまったく当たり前じゃない。そこにこれだけのジレンマがある、その事実。男並み(マッチョ)であるほど折れ(降り)やすいこの世界の枠組。

この本に、客観的な感想を書いてくれる人はたくさんいるだろうから、30代後半で初めての育休を取る女のごく主観的な感想。
「ありがとう。」


けれどこの本には処方箋はない。私の中にもない。男女含めた長時間労働の抑制、ジョブ型正社員の普及、・・・・・。誰もが、男も女も、それぞれのジレンマを抱えてもがいていく(併せて、それぞれのメリットも享受していく)、その積み重ねだけが地に足の着いた処方箋だ。