細波水波

さやさや揺れる風の中 さわさわ揺れる水の音 たゆたいながら月に10冊年100冊

日本の雇用と労働法

濱口桂一郎ことhamachan先生の日経文庫(でも新書(笑))。ジョブ型雇用とメンバーシップ雇用の分析軸から、日本の雇用をめぐる一切のシステムを説明する、というか日本の雇用の歴史からメンバーシップ型雇用の成り立ちを説明するもの。前の岩波新書より歴史に重点があって、ブログでの hot issueではさすがにここまでの通しの解説は望めないから、知らないことだらけですごく面白かった。労働経済の授業でも、テーラー主義とかフォードシステムとかは聞いたけど、戦前の日本の話なんて女工哀史蟹工船しか触れたものなかったし。戦後史なんてなおさらで、ゼネスト中止くらい?
知っている話だけでそれなりのストーリーは描けてしまって、しかし蓋を開けると全然違うリアルなストーリーがそこにある。勉強しなくちゃなあ、と思わされると同時に、これがすんなり読めるお買い得な新書だからありがたい。歴史に知識に謙虚でなくてはと思う以前に単純に面白いのです。

さてメンバーシップ型雇用とジョブ型雇用、ジョブが単なる取引関係だとしたら、労働者保護の源泉はなんだろう。交渉力の格差なんて耳タコですが、それはジョブでもメンバーシップでも同じだと理屈としては分かりますが、今までイメージしてきたその格差是正のためのツールは、単なる取引相手のためのものでない。どっぷり漬かり抜け出し難い、そういう関係を背景にイメージしてきた自分を再読時にしみじみ感じた。exitだけじゃなくてvoiceを取引先(みたいなもの)のために保障しようとする、その理念はなんだろう。
それでも、voiceの方がうまくいけばwin‐winなんだとは思うのだよな。でもそれはまた、結構メンバーシップを前提とした、長期雇用に傾く方策だと思うのでして。
やっぱりいまの自分の実感、この国のこの歴史の上のこの雇用から離れて考えられなくて堂々巡りをしそうになるのでして。これはもう、hamachan先生に国際比較を新書化していただくよりないのでは(専門書読めよ(笑))。考える視点の軸を示してくれる(というか楽しんでいるとついつい染まる)一冊です。


ちなみに、語られる授業レジュメと思って読むのが吉です。現状を皮肉に描写する表現が、著者の主張と受け取られないか、老婆心ながら心配です。