細波水波

さやさや揺れる風の中 さわさわ揺れる水の音 たゆたいながら月に10冊年100冊

夢の書 上・下

メリングのケルトファンタジー最新作。何と上下巻2段組、これまでのコンスタントな厚みからすると驚きです。しかしするすると読めていきます、多彩な土地と登場人物。そうそう、舞台はカナダです。
前作にロマンスがなかった主人公、つまり子どもであった彼女は、女の子になりました。大人の女じゃないけれど、女で、子どもじゃなくて。娘、少女、何と申上げたらいいんでしょうね。何よりも、ひとりの勇ましい者で。
「大人」になった前々作以前の主人公たちの抱えるほろ苦い何か、子どもであったダーナの感じる苦い苦い強い喪失。はじめに示されるそれら、土地との別れ、自尊心の摩擦、それらにこそ共感する感情を私は持っておりますが、それだけに一層ダーナが土地を愛するプロセスは、喜ばしく力強いものでした。
「その土地の者」、私はそうした者でしょうか、そうあろうとしているか。多分答は否でして、それを直ちに良くないことと思うわけではないですが、それこそが目を閉ざした子供の振る舞いかも知れません。せめて前任地を愛したほどには、この土地に親しむことが出来ますよう。そしてそれらはあくまで客人の愛なので・・・、さて私はこの土地とどのような関係を築くのか。
思いっ切り話が逸れたようですが、カナダで語られるケルトファンタジーと新しい、また古くからのカナダの妖精、そして美しいカナダの大地、とても鮮やかなものでした。