細波水波

さやさや揺れる風の中 さわさわ揺れる水の音 たゆたいながら月に10冊年100冊

紛争と難民 緒方貞子の回想

もちろんのこと緒方貞子。片道1時間半の電車の中でと献血待ちでとまとまった数度の時間に分割読みで。読み終えてみれば買ってからはしばらく時間が経過しましたね。読んでいる最中は、淡々と描写されつつも息もつかせぬ感じがあります。緊迫というのではない筆致ですが、そしてその緊迫さ加減を感じ取れないほどに私の側があれにもこれにも疎いのですが、ほんとうは「興味深い」で済ませていいものではないでしょう。
とはいえ、興味深いです。面白い、といってもいい・・・言っちゃいけないと思いつつ。序論、クルド、アフガン、アフリカ大湖地域(ルワンダ)、アフガン、結び、それから退任挨拶、安保理報告。読んでいると飲み込まれるのですけれど、そこで活動すること、そこで意思決定をすることが、重い。特にアフリカ大湖地域の混迷と葛藤と困難さ、難民キャンプそれ自体の政治的軍事的な危険と意味とけれど人道活動の必要と。キャンプのなかに一定の勢力、実は武装した勢力が居るとき、それはそれを見分けるにも武装解除するにも、難民をそれから守る/呑み込まれないようにするにも、具体的な力がいる。キャンプの外、難民が帰ることのできる場所を作るにも、力が要る。
緒方氏が何度も何度も求める政治的軍事的な介入、国際社会の意思の具現。やっぱり日本人としては、戦争放棄の理念とそこで求められている武力との関係を考える。それは矛盾しない・・・そう思うけれど、しかしどうだろう。しかしとにかくそれは、求められている。慎重に、けれど明確に。「あたかも国際社会はルワンダから何も学ばなかったかのように」との安保理への報告の中の一文は、ずしりと響く。 「もちろん私は、平和活動が人道活動よりも遅いことは承知しています。今後も我々、UNICEF赤十字・・・は真っ先に現地に駆けつけることでしょう。しかし」次に打つ手を打たなければ、現状は維持されるのではなく悪化するのは確か。けれど、では、誰が。自衛隊はやっぱり、行くべきなのか。(あ、本は日本向けに書かれていないので(英述の和訳です)、そういうことが書いてあるのではありません、念の為。)
同時に高邁な理想を手放すことのないこの組織。退任挨拶は圧巻です。
UNHCRは、難民キャンプに支援物資を運ぶだけの仕事をしてはいない。その広さと速さと長さと、次の組織(復興担当)に移るまでのその端境に責任を持とうとする責任感とジレンマ(それはUNHCRの仕事か?という問いとそれゆえの資源の不足)。軍隊との関係についても、復興へつなげる帰還先の安定化についても、どの意思決定にものリーダーシップと当事者意識。たったの10年に、なんてたくさんの重大すぎる出来事が、どれもこれも次から次へと!
寄付よりほかに、いったい、何ができるんだろう。
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