細波水波

さやさや揺れる風の中 さわさわ揺れる水の音 たゆたいながら月に10冊年100冊

蒲公英草紙−常野物語

はじめての恩田陸。淡々とした春の野の美しさで、もっと怖い文章を書かれる印象だったのにひっくり返された。常野物語には前作があることはわかっていたけど、光の帝国、なんて題より蒲公英草紙のほうがよほどに惹かれたので。図書館で目の前になかった光の帝国を待ちも探しもせずこちらを借りる。
前作を読んでいなくて困ることはまったくなかった、翌日に結局光の帝国を読んだ上での感想を申し上げれば、個人的には蒲公英草紙を先に読んだのは正解だった。常野のひとの「のどか」が前面に出た、穏やかでやさしくて静かで、そして凛とした責任感が最近ではめずらしくもすがすがしい、美しい話。結びに少々驚いたものの、光の帝国を眺めればそれは納得できることだし、こちらから読んだ場合もちりりと苦い隠し味。甘いだけの菓子ではなくて硬く味のある思考の種。
→ Amazon.co.jp 光の帝国もよかったけれど、私は蒲公英草紙のほうがもっと好き。