細波水波

さやさや揺れる風の中 さわさわ揺れる水の音 たゆたいながら月に10冊年100冊

アマゾン・ドット・コムの光と影

横田増生。潜入ルポ、とあるように、半年間アマゾンの配送センターでアルバイトとして働いた体験を軸とする一冊。もちろんこちらが影で、そして、評判から聞いていたよりは光の方にも焦点が当たっていて、おかげで読みやすかった。読みやすくて、そしておそろしい。
職場としてはこの上ない嫌悪感を抱きながら、利用者としては惹きつけられていく、という著者の言葉、それを裏付ける経験がこの本のすべて。筆者も、そして私も、アマゾンにはまっている。アマゾンの顧客第一主義。カスタマーレビューも、おすすめも、この本を買った人はこんな本も買っていますも、すばやくミスのない対応も。アマゾンにはアマゾンを選ばせる理由がたくさんあって、それは私を惹きつけるに足るのだけれど、いやおつりがくるのだけれど、私はこんなふうな労働に支えられてまでそれを享受したいわけでは・・・わけでは・・・いや結局そうなのかも。
こんなふうな労働。定着率が低いことを気にしない、使い捨ての、即戦力の、技能形成のほとんどない、昇給のない(技能形成をしても意味のない)、仕事がアイデンティティになり難い労働。時給850円の、2ヶ月契約の、労働。もちろんアイデンティティを仕事にのみ求める必要はないけれど、仕事外に求めようとするとたぶんそこでは年収がものを言う。労働者である筆者に、職場への嫌悪感を抱かせる、労働。
労働の二極化は、まったくアマゾンに限った話ではない。(だからといってこの本の価値が下がるわけではない。)企業戦略としてはそれは取り得るひとつの方策だ(もちろん、動機付けの低下は企業にもマイナスをもたらし、で、どこで折り合いをつけるかが企業の選択だ)。この本は、さすがに私は実はアマゾンでは買えなかったのだけれど(それは私側の要因で、もちろん普通に売っています)、それは意味のないことで、私は明日もアマゾンを使う。
そんなのどうしたらいいかなんて、わからない。
→ Amazon.co.jp