細波水波

さやさや揺れる風の中 さわさわ揺れる水の音 たゆたいながら月に10冊年100冊

人事と法の対話

すごく読みやすい対談&鼎談。人事管理論の守島基博先生と労働法の大内伸哉先生、そして企業の実務担当者。オビに「幸せ」が出てくるけれど、読んでいると幸せになるような感じ。企業が社員の幸せを追求する(なぜならそれが企業にとって合理的であるから)そんな場面をさらに大内先生の(大内先生標準よりもおそらく労働法一般のラインで穏やかになされた)突っ込みに守島先生がモデラートに解説される、そんな対話。
法律はどうしてもトラブルを見る。そもそも労働基準法は搾取や健康障害というトラブルを防ぐための法律だ。もちろん法律にはいろいろあって、最低基準じゃない世界も広いけど、でもやっぱり法律は、そして法律を使う人はトラブルを見る。
一方で、経済合理性は最低基準とは別物だ。モチベーションを上げることは企業にとって利益であり、人事管理は人から最大限の収益を生み出すための重要なツールで、そしてそれは個人の利益と「多くは」合致する。ここで語られているのはそういう幸せな話、どうすれば多くは個人の利益と合致するのか、に決まった方程式があるわけではないので人事管理は難しい。でもそれを模索する、それは方向性が幸せだから幸せなのだ。
さて、でも。これはほんとに「多くは」なんだろうか。どれくらい「多くは」なんだろうか。多ければいいってものでもない、一人であれ個人の利益が「ひどく」損なわれるときに法律はそこに目を向けるけど、それ以前に「多くは」もどれくらいそうだろう。
法律も、たぶん幸せを求めている。規制が企業の(そして労働者の)邪魔になる、そういうこともあるのだろう。邪魔にならないに越したことはない、でも。
ここで「でも」と言わない方法論を探しつつ、合理的な企業と合理的な法律は、労働者の幸せを追求するのだと、そういう再確認をして、そういう幹と根を自分の中にたくさんのおひさまとお水で育てていく、そういう本なのだと思いました。