細波水波

さやさや揺れる風の中 さわさわ揺れる水の音 たゆたいながら月に10冊年100冊

鴎外 闘う家長

山崎正和!確かにこの間鴎外記念館に行って、いったいあの家族への手紙の溺愛ぶりはなんなんだろうと思いはしたんですよね。すこし無理をして家長たらんとし、最後の方、長男から紹介されるエピソードはひどく痛々しい。鴎外は父親の存命中から家長となって(自他ともにそうであることを期待し当然のこととした)。そして、同じ立場の、例えば樋口一葉に、たいへん共感を示した。最後の一句の女の子のイメージは、話の筋を忘れていても確かに私の中で鮮明です。栗山大膳も読んでみよう。そしてそういう作中のある意味理想像とエピソードのギャップがまた切ない。
そして現実に適応するがゆえに自我がとらえられないこと、それ自体の葛藤。保護者という枠に適応しただけの自己、枠ではない自分の不確かさ。エリスを庇護するようにしか愛せない、愛しているのかもわからない、無意識の苛立ち。
どれもこれも眼から鱗でありながら、ああ、わかる、と思わされるのです、すごい。
不器用な鴎外の孤独と過剰な愛情と、そしてその不器用さが切々と語られつつ、最後は光が差して大変よろしい評伝でありました。