細波水波

さやさや揺れる風の中 さわさわ揺れる水の音 たゆたいながら月に10冊年100冊

差別と日本人

2009年の本。辛 淑玉と野中広務の対談で、基本的には辛さんが野中さんの半生を聞くという構造です。そして辛さんの解説が間に入るので、分量的には辛さんのスタンス7割、野中さんの応答3割という感じです。
解説が入る分、辛さんの烈しさが痛いほどだというところが読者を絞り込んでしまいそうですが(私としてはその烈しさにも敬意を表しますが)、同和利権を自分こそがとつぶしていった野中さんの生き方、被差別部落出身であることを(政治の場において)隠さない野中さんの政治家人生に言葉を呑みます。対談自体は穏やかで、辛さんの若い烈しさを老練にかわすさまにも。
そして最後に、辛さんと野中さんはいずれも差別されるものとしての家族への心境を吐露します。政治家として、原論家として発言することと、身内への心境は鋭く軋む。烈しさが痛いほどであっても、その痛みを誰より感じているのはその本人であると、それを垣間見させてくれる切ない本です。