細波水波

さやさや揺れる風の中 さわさわ揺れる水の音 たゆたいながら月に10冊年100冊

丕緒の鳥

丕緒の鳥、落照の獄、青条の蘭、 風信 。
表題作だけ一読しているのでやはり残りの3つでいちばん私が揺れたのは青条の蘭、ひとと語りたくなるのは落照の獄。
ネタばれが怖いので、続きは下に。


抱えこんで抱えこんで懸命になって、そしてどうにもならないところまで行き詰めて他人の手に委ねる、その不安。これはもちろん希望の話なんだけれど、だからこそのこの強い、鬼気迫る不安に心が揺れた。それだけのものが懸っている、それだけのものを懸けてきた、酷く追い詰められるその不安にあってこそ、この頼りない不確実な希望の成就に祈らずにいられない、こう支えられる国は希望は不確実じゃない、そんな話でもあるのだけれど、でもその頼りなさに息を呑む。淡々とした結びの、きらめくこと 。

落照の獄は死刑論。これまで感じていたもやもやとしたあれもこれもをみんな言語化してもらった感があります。他人の言語化に頼るなとも思いますが、でも、次に私が死刑を語るとき、これを念頭に置かずにはいられない。
何よりも、この掌編に完全に落ちをつけながら、死刑存廃には結論を出さないその技量。まさにこそ、この敗北感、です。

風信は、決して軽い話ではないのですが、この短編集のこころの憩いです(^_^) 。

余談ですが、青条の蘭はいま思うと主上のホラーでの追い詰め(られ)方にも似てる気がします・・・。